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東京地方裁判所 昭和34年(むのイ)465号 判決

被告人 田村定司 外一名

決  定

(被告人等の氏名略)

右の者等に対する窃盗被告事件につき、昭和三十四年七月九日裁判官井崎富之助のなした保釈請求却下の各裁判に対し、弁護人貝塚次郎及同久山勉からそれぞれ適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

本件申立はいずれも棄却する。

理由

一、本件準抗告申立の理由は、別紙弁護人貝塚次郎作成名義の「準抗告申立書」並びに弁護人久山勉作成名義の「保釈請求却下決定に対する準抗告の請求書」と題する書面に記載してあるとおりであるから、ここにこれを引用する。

二、一件資料によれば、被告人等に対する勾留原因たる被疑事実は、いずれも、「被告人等は共謀の上昭和三十四年一月二十四日午後七時過ぎ頃東京都千代田区神田鍜冶町二丁目四番地医薬品商吉川栄方店舗において同人所有のメサフイリン一〇〇グラム入六箱他医薬品六十一点価格合計金五万七千八百八十円相当を窃取した」というのであつて、右事実については昭和三十四年二月二十八日起訴せられ、その後同年四月九日、五月十八日、六月十九日、七月六日の四回にわたり、被告人等の共謀による昭和三十一年十月十七日から昭和三十四年二月六日までの間百三十余回に及ぶ窃盗の事実により追起訴せられている。

一件資料によると、これらの犯行はすべて薬品類の窃盗で、その犯罪の性質、態様等から観て略同種のものが反覆されて居り、且つその殆んどが前記勾留原因となつている昭和三十四年二月二十八日起訴にかかる事実の以前に行われたもので、換言すると、右犯行(勾留原因たる事実)の前に同種の犯行が繰り返し行われていることが窺われる。従つて右犯行は被告人等の常習性の発現と認めるに難くないもので、且つ同罪は長期三年以上の懲役にあたる罪であるから、本件は刑事訴訟法第八十九条第三号に該当し、いわゆる権利保釈には該らないものである。

三、次に申立人等は、本件勾留は不当に長い拘禁にあたる旨主張する。一件資料によると、被告人等の拘禁はいずれも昭和三十四年二月九日逮捕以来約五ヶ月を越えるものであるが、この間の経過を記録によつてみるに、被告人両名は同年二月二十八日共同被告人として起訴せられ、第一回公判期日の同年三月二十七日以後同年四月二十七日、同年五月二十二日、同年六月二十九日と四回の公判期日を累ね、次回公判期日として同年八月三日が指定せられているが、いずれも延期により実質的な審理はなされていない。そしてこの期日の延期はいずれも追起訴事件と併合審理をすることを事由とするものと推測される。すなわち、記録によると、被告人等は、前記二で認定した如く四回にわたつて追起訴せられ、各事件ともそれぞれ追起訴の後本件(勾留原因となつている公訴事実)の前記各公判期日にそれぞれの公判が開かれ、いずれも同様延期せられているのであるが、これらの公判期日はいずれも「追起訴予定のため」或は「余罪取調中」という事由で延期せられ、しかも検察官は追起訴と同時にいずれも本件との併合審理の請求をしており、かかる事由による延期が数回にわたつて異議なく行われているところからみて、本件の四回にわたる延期がいずれも追起訴事件との併合審理のためになされたものであることは何ら疑をさし挾む余地がない。

そこでかかる追起訴事件との併合審理のために延期を累ね被告人等の勾留が継続せられていることは不当であるかというと必らずしもそうとは考えられない。何となれば、追起訴事件を併合して審理することは、特別の理由のない限り、通常被告人の利益として行われるところであり、本件においても被告人の利益を害するが如き特別の理由は何ら見当らず且つその処理については訴訟関係人の間で何らの異議もなく経過したことは前認定の如くであり、又各起訴及び追起訴毎に一々勾留の上審理し判決するというやり方に比べ必ずしも未決勾留期間が長くなるということも考えられない。(なお併合審理される限り、たとえ勾留の原因となつた公訴事実が無罪となつても他の有罪の公訴事実の本刑に未決勾留日数を算入し得る。―最高判昭和三〇・一二・二六集九巻十四号二九九六頁参照)。もつとも併合審理のためなら追起訴のために勾留期間がいくら長くなつてもよいというわけではない。検察官が追起訴を理由に訴訟を不当に遅延させる場合には当然裁判所としては勾留が不当に長期にわたらないよう留意すべきであるが、本件の場合これに当るものとは考えられない。

してみると、本件の場合は証拠調その他実質的審理にこそ入つていないが、正にこれに匹敵すべき正当な事由により経過しているもので、前述のとおりすでに次回期日として八月三日が指定せられていることや又被告人等は何ら勾留に堪えられないような格別の心身の故障も見当らないこと等から考えて本件勾留が不当に長期にわたるものということはできないのであり、その他一件資料に表れた諸般の事情を考察するも現在の段階では被告人等に対する保釈請求を許可するのは相当でないものと思料せられる。

四、以上の理由によれば、被告人等に対しこの際保釈を許可するのは不相当であつて、本件保釈請求を却下した原裁判は相当であり、本件申立はいずれも理由がないことになるから、刑事訴訟法第四百三十二条、第四百二十六条第一項に従い本件申立はいずれもこれを棄却すべきものとし、主文のとおり決定する。

(裁判官 八島三郎 西川豊長 新谷一信)

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